1. なぜ40代から「脂肪肝リスク」が一気に高まるのか
1-1 脂肪肝・MASLDとは？
近年、「非アルコール性脂肪肝（NAFLD）」は
Metabolic dysfunction–associated steatotic liver disease（MASLD）
という名称に整理されつつあります。
ポイントは：
アルコールをあまり飲まない人でも
肥満・内臓脂肪・糖代謝異常などの「代謝の乱れ」を背景に
肝臓に脂肪がたまり、炎症・線維化・肝硬変・肝がんへ進行しうる
という“現代型の肝臓病”だということです。SpringerLink
40代以降は、
筋肉量の低下
基礎代謝の低下
過去の生活習慣の「積み重ね」
によって、同じ食生活でも「脂肪が肝臓にたまりやすい」体になっていきます。
2. 食べ物と脂肪肝リスク：何がわかっているのか（総論）
近年（とくに2023〜2025年）、食事と脂肪肝の関係を調べた研究が世界中で積み重なっています。
結論だけまとめると――
清涼飲料や砂糖入り飲料
赤身肉・加工肉の過剰摂取
超加工食品（UPF）・揚げ物中心の食生活
は、
いずれも「脂肪肝や肝機能悪化と有意な関連がある」
ことが、複数のコホート研究・メタ解析で示されています。サイエンスダイレクト+3Nature+3ResearchGate+3
以下では、動画テーマの「3選」に合わせて、
それぞれを科学的に分解していきます。
① 甘い飲み物：砂糖・果糖・人工甘味料と肝臓
①-1 健康への影響（身体・精神）
エビデンス
欧州4コホートを統合した2023年の研究では、
砂糖入り飲料（SSB）も低カロリー飲料（LNCB）も、脂肪肝指数で定義したNAFLD有病率と有意に関連していました。Nature+12025年のメタ分析では、
砂糖入り飲料と人工甘味料飲料の両方が、
NAFLDリスクの 約1.2〜1.6倍 程度の上昇と関連すると報告されています。PMC+1中国・英国の大規模コホート（約12万人）では、
「1日250ml未満のソーダ」でも、MASLDリスクが砂糖入りで約50％
ダイエット系で約60％
上昇したという発表もあります。Reuters+1
精神面では、糖質過多による血糖値の乱高下が、
倦怠感・集中力低下・気分変動と関連することが知られています。
①-2 ダイエットへの影響
液体の糖（砂糖・果糖）は**「噛まない」ため満腹感を得にくく**、総摂取カロリーを押し上げます。
果糖は主に肝臓で代謝され、余剰分は中性脂肪に変換されやすく、肝脂肪と内臓脂肪を増やすと考えられています。ResearchGate+1
その結果、
肥満・内臓脂肪増加
インスリン抵抗性
メタボリック症候群
を通して、脂肪肝リスクをさらに引き上げます。
①-3 疾病との関連性
多くは観察研究ですが、以下が繰り返し報告されています。
砂糖入り飲料の多飲で：
NAFLD／MASLDの発症リスク増加
2型糖尿病・心血管疾患のリスク上昇www.elsevier.com+2サイエンスダイレクト+2
人工甘味料飲料も、
安全とは言い切れず、肝脂肪・MASLDリスクと関連する報告が増えています。
①-4 栄養素・有効成分の機能（なぜ“肝臓を壊す”のか）
果糖（フルクトース）
小腸を経て、ほぼ肝臓で処理
ATP枯渇や尿酸産生、de novo脂肪酸合成を介し、肝内中性脂肪蓄積・炎症を促進
ショ糖（砂糖）
ブドウ糖＋果糖
血糖・インスリン分泌の急上昇＋果糖の脂肪合成が重なり、肝臓への負荷が増大
人工甘味料
エネルギーは少ないものの、腸内細菌や味覚・食欲調節に影響し、結果的にエネルギー摂取増・脂肪肝と関連する可能性
①-5 実践ポイント（科学的に現実的な対策）
「毎日SSB or 甘いカフェドリンク」を
→ 週1〜2回の楽しみレベルへ普段は、水・お茶・無糖コーヒー・無糖炭酸水をベースに
“ゼロカロリー飲料”も 常用ではなく、頻度を抑えた補助と考える
② 加工肉：脂肪・添加物・高温調理のトリプルパンチ
②-1 健康への影響
2024年の系統的レビュー＆用量反応メタ解析では、
赤身肉・加工肉の摂取とNAFLDリスクに有意な正の関連が報告されています。PMC+1特に加工肉では、
1日25g増えるごとにNAFLDリスクが約11％増加（オッズ比1.11, 95%CI 1.01–1.22）とされています。ResearchGate
加工肉は、脂肪肝だけでなく、
インスリン抵抗性
心血管疾患
大腸がん
といった疾患リスクとも関連することが、
多くの疫学研究で示唆されています。サイエンスダイレクト+1
②-2 ダイエットへの影響
赤身肉自体はたんぱく質・鉄などの供給源として重要ですが、
脂身が多い部位
ベーコン・ソーセージ・サラミなどの加工肉
を頻繁に、大量に食べると、
総エネルギー摂取の増加
飽和脂肪酸過多
体重増加・内臓脂肪増加
を通して、脂肪肝・メタボリック症候群を悪化させます。SpringerLink+1
②-3 疾病との関連性
観察研究・メタ解析では、
赤身肉・加工肉の多量摂取と
NAFLD／NASH
2型糖尿病
冠動脈疾患
大腸がん
などとの関連が繰り返し報告されています。サイエンスダイレクト+2jn.nutrition.org+2
②-4 栄養素・成分と機序
飽和脂肪酸
肝臓に中性脂肪として蓄積しやすく、脂肪肝を進行させる
ヘム鉄
酸化ストレスを介して炎症を促進する可能性
亜硝酸塩・硝酸塩・発色剤
腸内や体内でニトロソ化合物を形成し、発がん性・炎症性の作用が懸念される
高温調理で生じるHCA・PAH
DNA損傷やがんリスクの増加に関与するとされる
②-5 実践ポイント
「毎朝、ベーコン or ソーセージ」が習慣なら
→ まずは週の半分に減らす代わりに
卵
納豆・豆腐
焼き魚・サバ缶
などをローテーションに
肉を食べるときは
脂身の少ない部位
調理は焼きすぎ・焦がしすぎを避け、野菜と一緒に
③ 外食の揚げ物・超加工食品：生活パターンとしての“肝臓リスク”
③-1 健康への影響
超加工食品（UPF：Ultra-Processed Foods）には、
ファストフード
揚げ物惣菜
スナック菓子
インスタント食品
加工度の高い冷凍食品
などが含まれます。
2022〜2025年の複数の研究・メタ解析では、
UPF摂取の多い人ほど、
NAFLDリスクが約20〜35％高い（相対リスク1.2〜1.35程度）NAFLDに加えて、
メタボリックシンドローム・糖尿病・肝線維化・重症肝疾患リスクも上昇
といった結果が示されています。Clinical Nutrition ESPEN+5Frontiers+5PMC+5
③-2 ダイエットへの影響
UPFは、
高脂質（特に飽和脂肪・トランス脂肪）
高糖質
高塩分
低食物繊維
という特徴があり、**「太りやすく・止まりにくい」**よう設計されていることも多いです。
そのため、
総カロリーの過剰摂取
肥満・内臓脂肪増加
インスリン抵抗性
を通じて、脂肪肝を悪化させると考えられています。サイエンスダイレクト+2OUP Academic+2
③-3 疾病との関連性
最新のレビュー・メタ解析では、UPF摂取の多さが、
NAFLD／NASH
2型糖尿病
高血圧・心血管疾患
一部のがん
全死亡リスク
などと関連していることが示されています。Clinical Nutrition ESPEN+3Frontiers+3PMC+3
③-4 成分・機序
劣化した揚げ油
酸化脂質が増え、肝細胞への酸化ストレス・炎症を誘発
過剰なオメガ6系脂肪酸
炎症性エイコサノイド産生を増やす可能性
乳化剤・添加物・人工甘味料
腸内細菌叢の変化を通じて、「腸—肝軸」を介した炎症・脂肪蓄積に影響しうる
③-5 実践ポイント
まずは「週のうち、外食・惣菜・ファストフードの日数」を数える
そこから “週1回減らす” を目標に
自炊では
焼く・蒸す・煮る・茹でる
野菜・豆・魚・鶏むね肉を中心に
外食でも、
揚げ物定食 → 焼き魚・蒸し鶏・豆腐メインの定食に変更
サラダ・スープを足して「揚げ物オンリー」を避ける
4. 重くなりすぎない「脂肪肝リセット戦略」
4-1 どれくらいやせれば、肝臓は良くなるのか？
脂肪肝・NASH患者を対象にした研究では、
体重の5％以上の減量
→ 肝脂肪の減少・肝機能検査値の改善7〜10％以上の減量
→ NASHの組織学的改善・線維化の改善が増えるPubMed+2サイエンスダイレクト+2
といった結果が得られています。
例：70kgの人なら、
3.5〜7kg落とせば、肝臓レベルではかなり意味のある変化。
4-2 行動の優先順位（科学＋現実）
甘い飲み物を「ほぼゼロ」に近づける
加工肉は“毎日”から“ときどき”に格下げ
UPF・揚げ物中心の外食を減らす
野菜・海藻・きのこを、毎食1品以上
週150分の有酸素運動＋簡単な筋トレ
「完璧主義」ではなく、
“確率を下げる食べ方” として考えるのがポイントです。
5. まとめ：未来の自分の「肝臓」を守るために
この数年でわかってきたことを一言でまとめると――
肝臓を静かに壊していくのは、
特別な毒物ではなく、
「毎日の甘い飲み物・加工肉・超加工食品の積み重ね」である。
逆に言えば、
飲み物
主菜（肉の選び方）
外食・惣菜の頻度
この3つを少し変えるだけで、
脂肪肝・生活習慣病のリスクを、かなりの確率で下げられる
ということでもあります。
今日、甘い飲み物を1本やめる。
今日、加工肉を豆腐か魚に変える。
今日、揚げ物をやめて焼き魚定食にしてみる。
その「小さな選択」が、
5年後・10年後の肝臓の画像と、
あなた自身の表情を変えていきます。
📚参考文献（一次情報・近年の研究中心）
Naomi ND et al. Sugar-sweetened beverages, low/no-calorie beverages, fruit juice and non-alcoholic fatty liver disease defined by fatty liver index: the SWEET project. International Journal of Obesity, 2023.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37085478/
Sun Y et al. Associations of Sugar-Sweetened Beverages, Artificially Sweetened Beverages, and Fruit Juice with NAFLD. Clinical Nutrition, 2023.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1530891X23004305
Yu Z et al. Sugar-sweetened beverage consumption predicts metabolic associated fatty liver disease in patients with type 2 diabetes mellitus. Frontiers in Endocrinology, 2025.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fendo.2025.1651370
Zhou Q et al. Association between processed and unprocessed red meat consumption and risk of nonalcoholic fatty liver disease: A systematic review and dose–response meta-analysis. 2024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38665062/
Tsompanaki E et al. The Role of Diet in Nonalcoholic Fatty Liver Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. Clinical Gastroenterology & Hepatology, 2023.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1542356521012647
Zhang J et al. Ultra-processed foods and non-alcoholic fatty liver disease: an updated systematic review and dose-response meta-analysis. Frontiers in Nutrition, 2025.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnut.2025.1631975
Zhang S et al. Ultra-processed food consumption and the risk of non-alcoholic fatty liver disease. International Journal of Epidemiology, 2022.
https://academic.oup.com/ije/article/51/1/237/6370990
Fu J et al. Consumption of Ultra-Processed Food and Risk of Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: A Large Prospective Cohort Study. Molecular Nutrition & Food Research, 2025.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/mnfr.70099
García S et al. Ultra-Processed Food Consumption and Metabolic Dysfunction. Nutrients, 2025.
https://www.mdpi.com/2072-6643/17/3/472
Promrat K et al. Randomized Controlled Trial Testing the Effects of Weight Loss on Nonalcoholic Steatohepatitis. Hepatology, 2010.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19827166/
Vilar-Gomez E et al. Weight Loss Through Lifestyle Modification Significantly Reduces Features of Nonalcoholic Steatohepatitis. Gastroenterology, 2015.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0016508515004965
Koutoukidis DA et al. Association of Weight Changes With Changes in NASH and Fibrosis. Clinical Gastroenterology and Hepatology, 2022.
https://www.cghjournal.org/article/S1542-3565(21)00382-7/fulltext
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